何が起こったというのだろうか。
目の前にいた男達は少年の魔獣たちに束縛されていたのだから何も出来なかったはずだ。
しかし、目の前の少年は苦しそうにうずくまっている。
彼が崩れた瞬間、辺りに及んでいた魔力(ちから)が消え失せたためか、男達は自由の身となっていた。
それ幸いと思ったのか、男達はそれぞれに恐れ戦いた叫びを上げながら一目散に逃げて行く。
「今のうちだお前ら!引き上げるぞ!」
「あっ!ちょ…っ!待つったい!!」
逃げ出していく男達を追い掛けようとしたのだが、自分のすぐ側でうずくまっている少年が気にかかってしまい、少女は駆け出すことが出来なかった。
先程まで優位に立っていたはずなのに一体どうしたのだろうか。
「あんた…大丈夫ったいか?」
少女は彼の側に屈み込んで伏せられている顔を覗き込んだ。
彼の顔面からは血の気が失せていて、額や首筋には冷や汗が丸い雫を作っている。
心なしか呼吸も荒くなっている気がする。
瞳には先程のような焔は灯っていなかった。
「ちょっ…あんた…顔すごか真っ青ったいよ!」
「大丈夫…だよ…」
「これのどこが大丈夫ったいね!そげん体調悪かとに!」
「本当に…大丈夫だから…」
少年は乱れた呼吸を整えようとしながら、尚も苦しそうに言葉を紡ぐ。
平常の力に戻った彼の相棒(パートナー)達もそろそと近寄ってきて、心配そうに彼に寄り添っていた。
「ごめんね皆…しばらく回復に費やしたいから、戻ってくれるかい?」
少年の言葉に魔物たちは頷き、差し出された彼の手に擦り寄る。
先程よりも弱い光が灰と桃と緑の魔物を包み込み、次の瞬間には彼等の姿は忽然と消え失せていた。
「…回復?」
「うん…」
彼は側に残った蒼色の獣に手を延ばし、額や頬を撫でる。
そして少女に視線を向けて、弱々しく答える。
「ボクの身体、ちょっと訳ありでね…力を制御する魔術具を付けてるんだ。」
「力を…制御?」
「そう。だから一度に魔力を沢山使うと、需要と供給のバランスが崩れてしまってね。
最終的には魔力の供給が追い付かなくなって、今みたいに貧血のような症状が出てしまうんだ。」
我ながら情けないよ。
自嘲のそれで少年はふっと笑いを漏らした。
少女はそれにどう対応していいか分からず、ただ戸惑いを見せることしか出来ない。
「…そういえば、今日、あの場所から…此処…まで、走って、来た時…に、魔力、使ったんだっけ…?
計算に…入れ、忘れて…
……ふっ、…ボクも、まだまだ、…だね。」
でも、しばらく…休め、ば、元に戻る…から…大丈…夫……。
今にも気を失おうかという危うさを見せ続ける少年。
どう見たってそんな言葉を信じられるような状態には見えない。
いくら大丈夫だと言われたところで、少女は心から安心することが出来なかった。
しばらくと言ったってどのくらい休めばいいのかなんて分からないのだから、こんなところに彼を留まらせる訳にはいかないだろう。
休むのなら、それ相応の場所でするべきだ。
「だったら、すぐそこにあたしの秘密基地があるったい。
そこに行けばちゃんと休めるとよ。」
「…いいよ。本当に…少し休めば大丈…夫…だから…」
「そんな風ば言われたかって説得力なかとよ。
大丈夫ったい、歩けんのやったらあたしがそこまでおぶったるったい。」
「でも…」
「気にせんでよかよ。さっ、行くったい。」
そう言って少女はその華奢に見える力強い腕を少年の方へと伸ばし、その肩に触れた。
その時だった。
「…っ!」
「…っ!!」
二人の間に突然まばゆい光が発生した。
先程彼が作り上げた魔法陣のものよりも数段輝いたもので、視界が一瞬で白く染まった。
少女は驚いて手を引っ込め身を竦めてしまい、まともに動けなかった少年はただ目を見開いて己の周囲で起こった出来事を呆然と見ていた。
発された光は、何かに飲み込まれたかのようにすぐに消え失せてしまう。
後に残ったのは静寂と二人の子供の影だけであった。
「なっ…なんやの?今の…」
「……。」
何が起こったのか分からなくて混乱している少女を余所に、少年は自分の身に起こった事実に驚愕していた。
そんな馬鹿な……魔力が…一瞬で回復した…?
少年は表情を固定したまま、己の両手を凝視する。
確かに今の自分は先程のように力が満ちていた。
だがこれは常日頃なら決して"ありえない事実"であった。
ある可能性を除いては…
いや、そんなはずはない。
きっと何かの間違いだ。
そう思い直した彼は渦巻いた気を静める。
平生の表情を取り戻した少年は何事もなかったかのようにすっと立ち上がった。
「あっ…あんた…もう大丈夫なんか?」
「うん。………どうやら回復出来たみたいだ。君のお陰でね。」
「あっ…あたし?」
「君の魔力だよ。それがボクに力を与えたみたいだ。」
「あたしに魔力が?」
「…気付いてなかったの?」
少年は少女の方に再び視線を向ける。
「普通魔物たちは人間を嫌う。
それは人間が魔力も持たない、自分たちと似通ったものがない異端者だからだ。
今君がそうして魔物たちと一緒にいられること。
それが魔力持ちの何よりの証だよ。」
「そっ…そやったんかぁ…」
じゃああたしの魔力が役に立ったんやね。
少女は安堵の息を吐き、嬉しそうに綻ぶ。
だが少年はこの事態を訝しく思っていた。
実際、彼女の魔力は普通の人間よりは数段強いものの、"それだけ"で彼の魔力を満たせる程の器ではない。
つまり、自分の経験からいくと、全く筋が通らないからだったのだ。
だが奴らを逃がしてしまった以上、この事についてあれこれ思案するのは"絶対"であっても後にするべきだ。
その為に、一刻も早く己の用事を素早く済まさなければならない。
これ以上時間を費やす訳にはいかなかった。
「とりあえずボクはもう行く事にするよ。
お礼だけ言っとくね。ありがとう。」
「待つったい!あんたさっき届け物があるぅ言うとったね。
なしてこんな森の中ば通ってきたと?
コトキやミシロに行くんやったらわざわざごげなとこ通らんでよかとやろ?」
「しかたないだろ?届ける相手がこの森にいるんだから。
そうじゃなきゃちゃんと郵便で送ってるよ。」
「この森に…?」
「うん、オダマキさんっていうんだ。
そうだ、君はこの森で生活してるんだろ?
研究者の男の人見なかったかい?」
「なんやあんた、父ちゃんに会いに来たったいか。」
「…はっ?」
「だからオダマキ博士いうたら、あたしの父ちゃんのことったいよ。」
思わぬ所で手に入った情報に混乱せざるを得なかった少年とその相棒(パートナー)であった。
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なかなかハードな一日で、送る暇がなかったです(笑)
頑張って今日中にネットに顔出します!!!ノシ
目の前にいた男達は少年の魔獣たちに束縛されていたのだから何も出来なかったはずだ。
しかし、目の前の少年は苦しそうにうずくまっている。
彼が崩れた瞬間、辺りに及んでいた魔力(ちから)が消え失せたためか、男達は自由の身となっていた。
それ幸いと思ったのか、男達はそれぞれに恐れ戦いた叫びを上げながら一目散に逃げて行く。
「今のうちだお前ら!引き上げるぞ!」
「あっ!ちょ…っ!待つったい!!」
逃げ出していく男達を追い掛けようとしたのだが、自分のすぐ側でうずくまっている少年が気にかかってしまい、少女は駆け出すことが出来なかった。
先程まで優位に立っていたはずなのに一体どうしたのだろうか。
「あんた…大丈夫ったいか?」
少女は彼の側に屈み込んで伏せられている顔を覗き込んだ。
彼の顔面からは血の気が失せていて、額や首筋には冷や汗が丸い雫を作っている。
心なしか呼吸も荒くなっている気がする。
瞳には先程のような焔は灯っていなかった。
「ちょっ…あんた…顔すごか真っ青ったいよ!」
「大丈夫…だよ…」
「これのどこが大丈夫ったいね!そげん体調悪かとに!」
「本当に…大丈夫だから…」
少年は乱れた呼吸を整えようとしながら、尚も苦しそうに言葉を紡ぐ。
平常の力に戻った彼の相棒(パートナー)達もそろそと近寄ってきて、心配そうに彼に寄り添っていた。
「ごめんね皆…しばらく回復に費やしたいから、戻ってくれるかい?」
少年の言葉に魔物たちは頷き、差し出された彼の手に擦り寄る。
先程よりも弱い光が灰と桃と緑の魔物を包み込み、次の瞬間には彼等の姿は忽然と消え失せていた。
「…回復?」
「うん…」
彼は側に残った蒼色の獣に手を延ばし、額や頬を撫でる。
そして少女に視線を向けて、弱々しく答える。
「ボクの身体、ちょっと訳ありでね…力を制御する魔術具を付けてるんだ。」
「力を…制御?」
「そう。だから一度に魔力を沢山使うと、需要と供給のバランスが崩れてしまってね。
最終的には魔力の供給が追い付かなくなって、今みたいに貧血のような症状が出てしまうんだ。」
我ながら情けないよ。
自嘲のそれで少年はふっと笑いを漏らした。
少女はそれにどう対応していいか分からず、ただ戸惑いを見せることしか出来ない。
「…そういえば、今日、あの場所から…此処…まで、走って、来た時…に、魔力、使ったんだっけ…?
計算に…入れ、忘れて…
……ふっ、…ボクも、まだまだ、…だね。」
でも、しばらく…休め、ば、元に戻る…から…大丈…夫……。
今にも気を失おうかという危うさを見せ続ける少年。
どう見たってそんな言葉を信じられるような状態には見えない。
いくら大丈夫だと言われたところで、少女は心から安心することが出来なかった。
しばらくと言ったってどのくらい休めばいいのかなんて分からないのだから、こんなところに彼を留まらせる訳にはいかないだろう。
休むのなら、それ相応の場所でするべきだ。
「だったら、すぐそこにあたしの秘密基地があるったい。
そこに行けばちゃんと休めるとよ。」
「…いいよ。本当に…少し休めば大丈…夫…だから…」
「そんな風ば言われたかって説得力なかとよ。
大丈夫ったい、歩けんのやったらあたしがそこまでおぶったるったい。」
「でも…」
「気にせんでよかよ。さっ、行くったい。」
そう言って少女はその華奢に見える力強い腕を少年の方へと伸ばし、その肩に触れた。
その時だった。
「…っ!」
「…っ!!」
二人の間に突然まばゆい光が発生した。
先程彼が作り上げた魔法陣のものよりも数段輝いたもので、視界が一瞬で白く染まった。
少女は驚いて手を引っ込め身を竦めてしまい、まともに動けなかった少年はただ目を見開いて己の周囲で起こった出来事を呆然と見ていた。
発された光は、何かに飲み込まれたかのようにすぐに消え失せてしまう。
後に残ったのは静寂と二人の子供の影だけであった。
「なっ…なんやの?今の…」
「……。」
何が起こったのか分からなくて混乱している少女を余所に、少年は自分の身に起こった事実に驚愕していた。
そんな馬鹿な……魔力が…一瞬で回復した…?
少年は表情を固定したまま、己の両手を凝視する。
確かに今の自分は先程のように力が満ちていた。
だがこれは常日頃なら決して"ありえない事実"であった。
ある可能性を除いては…
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きっと何かの間違いだ。
そう思い直した彼は渦巻いた気を静める。
平生の表情を取り戻した少年は何事もなかったかのようにすっと立ち上がった。
「あっ…あんた…もう大丈夫なんか?」
「うん。………どうやら回復出来たみたいだ。君のお陰でね。」
「あっ…あたし?」
「君の魔力だよ。それがボクに力を与えたみたいだ。」
「あたしに魔力が?」
「…気付いてなかったの?」
少年は少女の方に再び視線を向ける。
「普通魔物たちは人間を嫌う。
それは人間が魔力も持たない、自分たちと似通ったものがない異端者だからだ。
今君がそうして魔物たちと一緒にいられること。
それが魔力持ちの何よりの証だよ。」
「そっ…そやったんかぁ…」
じゃああたしの魔力が役に立ったんやね。
少女は安堵の息を吐き、嬉しそうに綻ぶ。
だが少年はこの事態を訝しく思っていた。
実際、彼女の魔力は普通の人間よりは数段強いものの、"それだけ"で彼の魔力を満たせる程の器ではない。
つまり、自分の経験からいくと、全く筋が通らないからだったのだ。
だが奴らを逃がしてしまった以上、この事についてあれこれ思案するのは"絶対"であっても後にするべきだ。
その為に、一刻も早く己の用事を素早く済まさなければならない。
これ以上時間を費やす訳にはいかなかった。
「とりあえずボクはもう行く事にするよ。
お礼だけ言っとくね。ありがとう。」
「待つったい!あんたさっき届け物があるぅ言うとったね。
なしてこんな森の中ば通ってきたと?
コトキやミシロに行くんやったらわざわざごげなとこ通らんでよかとやろ?」
「しかたないだろ?届ける相手がこの森にいるんだから。
そうじゃなきゃちゃんと郵便で送ってるよ。」
「この森に…?」
「うん、オダマキさんっていうんだ。
そうだ、君はこの森で生活してるんだろ?
研究者の男の人見なかったかい?」
「なんやあんた、父ちゃんに会いに来たったいか。」
「…はっ?」
「だからオダマキ博士いうたら、あたしの父ちゃんのことったいよ。」
思わぬ所で手に入った情報に混乱せざるを得なかった少年とその相棒(パートナー)であった。
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